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SHORT STORY

Halloween Capriccio

With Main Member 1/2

「エヴァン! トリックオアトリートですわよ。お菓子くれなくても、じゃなかった、お菓子くれないと悪戯します!! 」
「私も、お菓子くれないと、えーっと、いたずら、します?」
「それは困るな」

 待ち合わせの挨拶代わりに、アガーテはぶんぶんと手を振りながらエヴァンに声をかける。アガーテの隣には彼女に連れられたセレナがいた。目を白黒させているところを見ると、どうやら引っ張られてきたらしい。その後ろをにこにこ笑いながら、スミレ色の髪の少女と金髪の執事のような男性がついてくる。
 エヴァンの方も心得たもので、ラッピングされたマシュマロをアガーテとセレナにひょいと渡す。彼の隣にいるアダンはひらひらと両手を振りながら、自分が何も持っていないことをアピールしてみせた。

「僕は何も持ってへんから、イタズラしてもええよお」
「それなら後でイタズラを考えなければいけませんわね」

 やる気満々の様子を見せるアガーテは、16歳という年からは考えられないほど子供じみて見えた。そんな童女のような彼女の姿を見て、エヴァンはほんの少し口元を緩めながら言う。

「それにしても、この年でハロウィンってどうなんだ」
「行事に年齢は関係ないですわよ?」
「そういえば、2人は仮装せえへんの? きっと似合う思うけどなあ」

「魔術師が魔女に扮するのも芸がないかと思ったのですけれど、何かするべきでしたでしょうか?」

 アガーテは自身の格好を見て、そしてアダンたちを再度見て小首を傾げる。好奇心がそのまま塊になったような彼女のことだ。このような行事なら率先して仮装をするかと思ったが、自分なりに思うところがあったらしい。

「普段から仮装のような格好をしていましたので、あまりピンとこないのですが……」

 対するセレナも、自身の普段の身なりを振り返りたどたどしい口調で意見を述べる。日常的に神父のような身なりをしていた彼女だ。今更仮装と言っても、これだと思うものがないのだろう。
 すると、2人の後ろで興味深げにやり取りを伺っていたスミレ色の少女がぱんっと手袋をはめた手を合わせて1つの提案をした。

「たとえば、私がしていた格好とかでしょうか?」
「ダメだ!!」

 だが、彼女がその提案をした瞬間、間髪入れずエヴァンが否定の声をあげる。普段は落ち着いてどっしり構えていることの多い彼にしては珍しいことだ。

「うわあ! びっくりしたあ。エヴァンどしたん、急に」
「アガーテにそんな格好はさせられない 」
「そんな格好って……リリーに失礼ちゃう? 僕はリリーの格好したせーちゃん見てみたいけどなあ」

 リリーと呼ばれたスミレ色の髪の少女は、少し申し訳なさそうに俯く。日常に溶け込むために着ている普段着ならともかく、彼女が最初に纏っていた衣装は薄絹を何枚も重ねたような薄手の服だった。

「確かにちょっと派手……でしょうか。私はあまり気にしたことがないんですが」
「あら、私は可愛いと思いますわよ。ティンカーベルみたいじゃありませんこと?」
「年頃の女性が、体のラインが出る服を着るのはどうかということを言いたいのだと思うよ」

 わいわいと盛り上がる女子たちに、エヴァンの懸念を後ろの男性がやんわりと伝えた。アダンよりも幾分か年上の彼は、わけあって今はアガーテの執事兼ボディーガードのような立ち位置にいる。
 セレナはくるりと振り返り、苦笑いを零している彼に尋ねた。

「そういうものなのですか? 別に全身タイツというわけでもないのですから気にしなくてもいいと思うのですが」
「それはそれで極論すぎるような……」
「全身タイツ……。いや、そういう趣味の人もおるからね、気をつけんとあかんと思うよ二人とも」

 リリーは自分の衣装を振り返ってみる。ぴったりとしたロングブーツこそ履いているものの、全身タイツではなかったはずだ。
 一方、アダンはどこか世間ずれしているセレナの極論に頭を抱えていた。全身タイツと言えば、どうしても冗談半分の色が強い。だが、体の線が出るという意味では単純な露出よりもきわどい代物なのだ。

「それに、リリーのスカートは短すぎる。目に毒だ」
「それなら、私たちは何の仮装をすればいいんですの?」
「着ぐるみでいいだろう。露出も少ないし、暖かい」
「あーそれはええかも。かわええし」

 

 エヴァンが無難な提案をし、アダンもそれに賛同する。

 10月とはいえ、冬の足音がするロンドンは結構寒い。それこそ露出の激しい衣装など着たら風邪をひいてしまうだろう。

「では、それにいたしましょう。セレナ、ふわふわもこもこ探しますわよ」「私も着てみたいです! ふわもこ、気になります!」

 アガーテはこれまたセレナとリリーを伴い、仮装を扱っているファンシーショップのような場所へと足を向け始めた。彼女らの後ろを半歩ついていっていた男性陣は、3人が店の中に消えていくのを見送りながら三者三様の苦笑いを浮かべている。

「女性陣の仮装ははらはらさせられるね。そういえば、2人は仮装しないのかい?」
「僕らが仮装しても楽しないやろ? かわええ女の子がするからええねん」
「そうだな。アーサーこそ、王子様のような恰好をすれば、女性は喜ぶんじゃないか? 」

 エヴァンは隣に並び立つ青年に声をかける。

 町を歩けば10人の女性のうち8人は必ずは振り返るだろう顔立ちの彼だ。気品のある礼装などを着せれば、女性たちが放っておかないだろう。

 だが、アーサーはゆるゆると首を横に振った。

「いや、僕は甲冑だけで十分だよ。騎士の格好というだけでも、この時代なら十分仮装になるだろう?」
「そうやなあ、甲冑姿なんてコスプレとしか思わへんもんなあ」

 アーサーが言う通り、彼はいざというときには甲冑を纏い戦う立場にある。彼の正体を考えればそれは妥当であり、その姿だけでも確かに十分に仮装と言えた。

「うーん……エヴァンとかフランケンシュタイン似合いそうやけどね」
「やめてくれ」
「フランケンシュタイン……。ああ、確かに背が高い君にはぴったりかもしれないね」

 本当にこのまま店に入ってフランケンシュタインの仮装を買ってこられてはかなわない。

 エヴァンがアダンの意見を却下していると、先ほどまで自分たちの近くで騒いでいた女子たちの声が耳に飛び込んできた。見ると、そこには着ぐるみというよりは着るパジャマのような格好をしていた3人がいた。普段着の上にそのまま着られるもののようで、着替えの利便性も考慮したのだろう。

「簡単に着替えられましたし、こちらにしましたの」
「暖かくていいですね……。ほら、リリーさんも」

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