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SHORT STORY

Halloween Capriccio

With No Name 1/3

 自分の家のチャイムの音を聞き、ミラは来るべき時が来たなと思って扉を開く。
 はたして、そこには予想通り見慣れた褐色肌の女性と傷の入った顔のあどけない少女がいた。
そして彼女たちは口々に言う。

「お菓子くれないとー」
「解体しちゃうよー」
「お前ら怖いな!!」

 幼子の姿をしているジャックは、さも当然のように大降りのナイフを持っていた。そして、ジャックが持たせたのだろう、メイは片手にメスを持っている。

 だが、これはハロウィンの飾り物ではない。英霊――正確には反英霊のジャック・ザ・リッパーが所持しているメスなのである。十分凶器といえる代物だ。

「あれ、違った?」
「悪戯だ、悪戯! なんでお菓子あげないだけで、惨殺死体にならなきゃいけないんだ!」

 ミラは律儀に返事をしながら、玄関先に置いていたクッキーの包みを取り出した。そして綺麗にラッピングしたそれを、ジャックとメイに押し付ける。メイはびくっとしながらも、その包みを受け取った。
 透明な包み紙の向こうにはチェス盤のようなアイスボックスクッキーから、蕾のような形にナッツやドライフルーツが乗った搾り出しのクッキーが見える。お菓子でありながら、その1つ1つがメイにとってはまるで宝石のように見えた。

「ミラってさ、また仮装でもないのにそんな格好してるの?」
「いちいち口だしするんじゃない。それより、さっさとナイフ仕舞え」

 ミラに言われて、2人は「はーい」と異口同音に言う。

 ジャックはメスをメイから受け取り、光の粒へと変えていく。英霊の道具だから当たり前ではあるのだが、いつ見ても不思議な現象だった。

「お前らと話していると頭が痛い……。ああ、蒼鷹の所に行ってもしょうがないと思うぞ。絶対、凄い顔されるだけだと思うから」
「お菓子持っていないなら、解体しちゃダメ?」
「するな!! ああもう、お前らだけだと不安だから俺もついて行く。で、次はどこに行くんだ」
「えっとね、蒼鷹さんの所」

 さっき行っても無駄だと言った所だろう。

 ミラはそう思い、もう一言どころか三言ほど文句を言いたくなった。

 だが、ぐっとそれを飲み込み、他の知り合いに渡そうと思っていたお菓子を紙袋の中に入れてメイとジャックと共に外に出た。

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