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SHORT STORY

Halloween Capriccio

Prologue

「北欧の方だと、宗教上の教えであまりハロウィンは受け入れられてないということですわよね」

 アガーテは木枯らしが吹き荒れる公園の一角で、たまたま出くわした知人に話しかけていた。
 その知人は、コートを軽く羽織ったラフな格好でアガーテの話を聞いていた。彼の故郷は寒いところだからその格好も妥当という所だろう。

「意外かもしれないけど、東方の新教はそのあたりご法度で、旧教の方が緩かったらしい。俺はイギリス生まれだから、あまり関係ないけどな」

 肩にかかる銀髪を軽く揺らしながら、その人――ミラは言う。今からお菓子の梱包でもするのか、彼の腕にはリボンや紙袋が詰まった手提げ鞄がさがっていた。朝早くから買出しに行っていたらしい。
 アガーテは納得したように何度か頷く。そして、隣に座っているもう1人の知り合いに声をかけた。こちらは待ち合わせまでの時間つぶしを、珍しく外でしていたらしい。

「そういえば、シリル。日本は仏教の国ですわよね? あるいは神道でしたかしら。なんでハロウィンが流行ってますの?」

 そう呼びかけられて、フードを被った少女とも少年とも思えぬ人物が顔を上げる。その姿は、やや日本という社会から浮いて見えたが、今日に限ってはハロウィンというこもあってか誰かに咎められる心配もなさそうだった。
 アガーテの問いを聞いて、その人物――シリルは彼女の方を見ながら、日本育ちの自分の知識を引っ張り出す。

「派手だし盛り上がるからじゃないか。大真面目な話すると、アメリカの商業主義の影響とかになるんだろうけど。要ははしゃげる機会があればいいってことだ」
「確かに、普段と違う格好で遊ぶのは楽しいですわよね。お菓子も用意してますの?」

 アガーテは、シリルに懐いている少女の顔を思い出して問いかける。

「「勿論」」

 そして、2つの中性的な声が重なって響いた。

 暫しの沈黙。

 そしてシリルは、今度は自分の側に立っているミラに目を向ける。

「待て、なんでお前まで用意してるんだ」
「どうせたかりにくる連中がいるからだよ。メイとかクレインとか。ソフィアにも渡した方がいいだろうし」

 ミラは手袋に包まれた指を順々に折っていきながら、シリルに説明をする。
 たかりにくる連中がいるからといって、突っぱねても文句を言われるわけでもないだろう。シリルは改めて目の前の彼の律儀さに感心する。

「あと、蒼鷹とナターシャさんには甘すぎないお菓子でも作って渡そうかなと。いつも世話になってるし」
「……えーっと、なんだ。お前みたいに知り合いとか世話になってる奴にお菓子とか食べ物渡すっていうのは、日本じゃハロウィンって言わない」

 別にトリックオアトリートと言われたわけでもないのに、自らお菓子を用意して渡そうとしている。そんなミラを見て、シリルは思わず口を挟んだ。

「じゃあ、こういうのはなんて言うんだ?」
「お中元って言うんだよ。……確かに、ハロウィンはある意味お盆だから、間違っちゃいないけどな」

 死者が帰ってくるという意味では、お盆もハロウィンも大した違いはあるまい。
 シリルは肩を竦めながら、自分も他の知り合いに渡すものを用意した方がいいか、と思うのだった。

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