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SHORT STORY

Halloween Capriccio

With Maria and Heino and Joni 1/2

 町の喧騒を耳で感じながら、セレナはぱたんと本を閉じた。
 折りよく、1人の青年が彼女に声をかけてきたからだ。丁度、仮装をした子供だけでなく大人まで練り歩いている様子がテレビで流れていた。

「大人はお菓子をあげる側じゃないんですか」

「日本においては、ハロウィンは仮装パーティのイメージが強いんですよ」

 セレナは本や伝聞で聞いた内容、たまたまマリアと来日したときに見た飾りつけのことなどを思い出しながら返事をする。

 彼女の言葉を、少年――ヘイノは神妙な面持ちで聞いていた。

「もっとも、日本はハロウィンと同じような祭りがお盆という形であります。なので、何故わざわざハロウィンをやろうという気になるのかわかりませんね。一年に何度もお化けが闊歩しても困るでしょうし」
「いや、そこは単に楽しむチャンスは多い方がいいとか、そういうことじゃないんですか?」
「経済的利益を狙った企業の仕業でしょう?」

 淡々とセレナにそう言われてしまい、ヘイノのは僅かに表情を強張らせた。事実はそうなのかもしれないが、あからさまにドライに言われると味気なさも数割増しというものである。

「シスター・セレーナ。少しは夢を持ちましょうよ」
「……夢を持つのは構わないですが、迷惑をかけるのは良くないと思います」
「迷惑?」

 セレナはヘイノから目を逸らして、部屋の扉向こうから聞こえるやや騒々しい足音に耳を傾けた。ヘイノもつられて、彼女と同じように扉に目を向ける。

「ブラザー・ヨニが、シスター・マリア・クロウにお菓子をたかりに行かないかと思いましたので」
「あー……ありそうには見えますよね。でも……多分ですけど、それはないと思いますよ」
「何故?」

 セレナがそう問いかけたとき、おもむろに扉が開き噂の中心人物がやってきた。
 いつも通りの神父服に首からロザリオをかけた彼は、部屋に入ってきながら、普段と同様声を張り上げる。

「いや、あまり俺の中でハロウィンって浸透してないから」
「どういう意味ですか?」

 先ほどまでの話を聞いていたらしく、特に困惑することもなくヨニは2人の話の中に入ってきた。彼はヘイノの方をちらと見て、人差し指を天に向けながらまるで説教でもするかのように講釈を始める。

「俺の住んでた地域だと、ハロウィンはあまりしてなかったし寧ろご法度な雰囲気だったからねー。施設のあった地域だと、もう少し寛容に色々してたんだけど」
「意外ですね。北欧はそうなのですか?」
「そうそう。だから、ハロウィンだから遊ぶぞーって習慣があるわけじゃないかなー」

 ヨニはしたり顔でうんうんと頷く。この2人の故郷はフィンランドであり、そこでは新教が盛んであるとはセレナも聞いていた。どうやら、旧教か新教かで季節の行事の受け止め方も違うものらしい。

「てっきり、もうねだりに行った後かと思ってた」
「失礼な。これから貰えるなら貰いに行こうかと思ってたところだよ」
「……は?」

 先ほどの話では、ハロウィンには興味がなかったのではないか。

 セレナがそう思って呆気にとられていると、ヨニはにこにこ笑いながら胸を張った。

「俺のいた地域でやってたかと、俺が貰いに行きたいかは別問題。大義名分があるなら、むしろ率先して行くべきだと思うけど?」
「……なあ、ヨニ」
「んー?」

 悪びれもせず、今すぐにでもお菓子をねだりに行こうとするヨニの肩にヘイノは手に置く。そして、双子の弟を引きとめながら、彼は一句一句聞き取れるように区切りながら声をかけた。

「お前、今年で、いくつだっけ?」
「16だけど? 大丈夫、マリアおばさんよりひとまわり年下だと思うから!」
「そういう問題ではないと思います。浮かれるなとは言いませんが、子供みたいにねだりに行く年齢でもないでしょう」
「えー」

 セレナにまでそう言われてしまい、ヨニは口をへの字に曲げる。ヘイノは肩を竦めた後、ヨニの頭に軽くチョップを落としながら、大きくため息をついた。

「分かったら、大人しくしてろ」

そう言って、ヨニをその場に留めるかのように彼の両肩に手を置いたのだった。

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